東京地方裁判所 昭和36年(ワ)6121号・昭35年(ワ)8883号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【事実】昭和三五年(ワ)第八、八八三号
(事件請求の原因)
原告ホームラン濾水機株式会社訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。
一 原告ホームラン濾水機株式会社の特許権
原告ホームラン濾水機株式会社(以下原告ホームラン濾水機という。)は、次の特許権(以下、甲特許権という)につき現に、その二分の一の持分権を有する。
名 称 濾過装置
出 願 昭和三十年六月二十二日
出願公告 昭和三一年十月二〇日
登 録 昭和三二年三月二八日
登録番号 第二三〇、三〇〇号
二 特許請求の範囲の記載
甲特許発明の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の項には、「囲面に示す通り濾過器を密閉槽内に多数並設し各濾過器下端を集液管に連通させ濾過槽下方に噴出管を設け該管に送液ポンプを介して連結した結液管と濾過槽上部とを循環管により連結すると共に循還管と集液管を連結し更に給液管に通ずる小容量の珪藻土容器と循還管を連結し給液管より濾過槽を経て循還管に至り給液管又は珪藻土容器を経て給液管に還流する循還路及び給液管より濾過槽の濾過器を通り集液管より循還管に入り給液管に還流する循還路を形成し、珪藻土容器の形状を著しく小ならしめたことを特徴とする濾過装置」なる記載がある。(中略)
昭和三六年第(ワ)六、一二一号事件
(請求の原因等)
原告ミウラ化学装置株式会社訴訟代理人は、請求の原因等として、次のとおり述べた。
一 原告ミウラ化学装置株式会社の特許権
原告ミウラ化学装置株式会社(以下、原告ミウラ化学という。)は、次の特許権(以下、乙特許権という。)につき、昭和三十五年三月三十一日、共有持分取得の登録をし、同日以降、その持分四分の一の権別者である。
名 称 高速度濾過機
出 願 昭和二十四年三月三十一日
出願公告 昭和二十五年三月二十二日
登 録 昭和二十五年七月十八日
登録番号 第一八三、九一八号
二 特許請求の範囲の記載
乙特許発明の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の項には、「本文に詳記し図面に示すように、粗目金網板に細目金網版を重合した濾過網版を対向させてこの周囲を流路管により包囲した数個を濾過槽に配設した聚合管に連結して濾過槽内に広面積に立設し、この聚合管の一部より濾過液排出口及混合槽へ至る管を連結して混合槽よりはポンプを介して濾過槽に圧入すべくしたことを特徴とする高速度濾過機」なる記載がある。(省略)
【判決理由】第一 昭和三五年(ワ)第八、八八三号事件について
一 原告ホームラン濾水機の権利
原告ホームラン濾水機が甲特許権の持分二分の一の権利者であること、及び右特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載が同原告主張のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。
二 甲特許発明の特徴
前記当事者間に争いのない甲特許発明の特許請求の範囲の記載及び(省略)を参酌すると、甲特許発明は、濾過装置において、従来、濾過槽容量以上の容積を有する珪藻土槽を省略し、極めて小型の容器でその目的を達成することを目的としたものであり、
(一) 濾過器を密閉槽内に多数並設し、各濾過器下端を集液管に連通させ、濾過槽下方に噴出管を設けること、
(二) 噴出管に送液ポンプを介して連結した結液管と濾過槽上部とを循還管により連結するとともに、循還管と集液管を連結し、更に給液管に通ずる小容量の珪藻土容器と循還管を連結することにより、
「給液管より濾過槽を経て循還管に至り給液管又は珪藻土容器を経て給液管に還流する循還路」(B循還路)
「給液管より濾過槽の濾過器を通り集液管より循還路に入り給液管に還流する循還路」(A循還路)
を形成すること、
をその要部とし、このような構造により
B循還路により液と濾過粉末とを平均に懸濁し、A循還路により濾過膜形成と濾過の作用をするため、従来の貯槽を省略し、珪藻土容器の形状を著しく小ならしめうること、
という作用効果を有することを認めることができる。(中略)
三 被告の製品及びその特徴
被告の製品が別紙第一目録の図面及びその説明書記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。
しかして、被告の製品の甲特許発明の要部に対応する構造上の特徴は、
(一) 濾過器1を密閉濾過槽2内に多数並列し、濾過器1の下端を集液管3に連通させ、濾過槽下方に給液管5の噴出口を開口すること、
(二) 給液管5に送液ポンプを介して連結した循還管9は濾液還流管8を経て集液管3に連結し、更に給液管5に通ずる珪藻土容器を送液ポンプの排出口側に連結することにより、給液管より濾過槽の濾過器を通り集液管より濾液還流管を経て循還管に至り給液管又は珪藻土容器を経て給液管に通ずる循還路
を形成すること、
にあることは、被告の製品の構造自体から明らかである。
四 被告の物件は、甲特許発明の技術的範囲に属するか
被告の製品は、次に説示するとおり、その構造において、甲特許発明の要部の一を欠き、その作用効果においても甲特許発明のそれを有していないから、他の要部を具備するかどうかについて判断するまでもなく被告の製品は甲特許発明の技術的範囲に属するものとはいいえないといわざるをえない。すなわち、
甲特許発明は、B循還路をA循還路とは別個に形成し、循還路によつて平均懸濁の作用効果を得るものであることは、前説示のとおりであるところ、被告の製品は、濾過槽の上部と循還管を連通する循還管がなく、したがつて、濾過器を通らないB循還路を欠如している。しかして、右構造に前掲(省略)の鑑定の結果を参酌すると、被告の製品は、珪藻土容器の構造を、高圧側開閉弁を経て上部より内部に入りその内底近くに開口する支管と、その上部に開口し底部より取り出され低圧側開閉弁を経て給水管の噴出口近くに連結される支管を有するものとし、右構造によつて珪藻土容器の底部に開口する支管より水を噴出させて珪藻土と水とを容器内で混合攪拌するもので、このような特殊の構造の珪藻土容器によつて、B循還路に代り液と濾過粉末の平均懸濁を行つているものである。したがつて、珪藻土容器の形状は、甲特許発明がB循還路を形成することによつて期待している程度には、小容積になりえないことは、明らかである。かように、被告の製品は、甲特許発明の要部であるB循還路を欠除し、その作用効果においても前記のとおりの差異があるから、甲特許発明の技術的範囲に属するものとはいいえない。(中略)
第二、昭和三六年(ワ)第六、一二一号事件について
一 原告ミウラ化学の権利
原告ミウラ化学が、昭和三十五年三月三十一日以降乙特許権の持分四分の一の権利者であること、及び右特許の出願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載が原告ミウラ化学主張のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。
二 乙特許発明の特徴
前記当事者間に争いのない乙特許発明の特許請求の範囲の記載及び(省略)を参酌すると、乙特許発明は、各種の液体の濾過精製を迅速かつ完全に遂行する高速度濾過機の構造にかかり、
(一) 粗目金網版に細目金網版を重合した濾過網版を対向させてこの周囲を流路管により包囲したもののあること、
(二) 右の数個を濾過槽に配設した聚合管に連結して濾過槽内に広面積に立設すること、
(三) 聚合管の一部より濾過液排出口及び混合槽に至る管を連結すること、
(四) 混合槽よりはポンプを介して濾過槽に圧入すべくしたことを、その要部とするものであることを認めることができる。
しかして、右にいう「混合槽」とは、「濾過すべき液の全量を容れるに足る容積を有する混合槽」と解すべきである。けだし、前掲甲第一号証の一の「発明の性質及目的の要領」欄には乙特許発明の目的として「混合槽に濾過すべき液体と適当な濾過粉末を投入して混合した液体をポンプにより濾過槽に圧入して濾過槽内の濾過網版を通過させ周囲の流通管より聚合管を通じて再び混合槽内へ還流させ之を反覆して濾過粉末を濾過網版に附着させ漸次微細なる濾過粉末による濾過膜を層成して完全に濾過した後排出口より濾過した液を取り出すようにし」と記載され、乙特許発明の作用につき、「先ず混合槽10に濾過すべき液体を充して適量の珪藻上或いは脱色、脱臭性粉末等の濾過粉末を投入し濾過槽6に至る管12のバルブ17を閉じてポンプ13を回転すれば循還とともに混合攪拌せられる適当に混合したる後……中略……而して混合液が濾過網版1を通過する際に混合する濾過粉末が網目に附着して混合液の混合槽及び濾過槽間の循還を反覆するに及び濾過粉末は可及的に網目に附着して層状をなし、これは網目を愈々微小ならしめて濾過粉末による濾過膜を形成し遂には完全清純なる精製液を得られる」と記載されその効果として、「所要の精製度に確実かつ迅速に濾過し得て」と記載されていること、並びに成立に争いのない乙第八号証と前掲(省略)の鑑定の結果により認め得べき乙特許発明出願前において、濾過すべき液に珪藻土の如き濾過助剤を添加し攪拌混合したのち濾過膜に供給し濾過を行うという思想及び密閉槽内に粗目金網の両側に微目金網を重ねた濾葉を多数板たてに立設し、それぞれの濾液を下部の濾液集合管に連結した濾過槽と、珪藻土混合槽及びポンプ相互間を連結配管し、金網表面に予め珪藻土膜を作成した後に濾過する構造は、いずれも濾過機において公知であつたことを参酌すれば、乙特許発明の特徴は濾過粉末により形成せられた濾過膜を濾過すべき液を通過させることにより濾過するというのではなく、一定量の濾過すべき液の全量に濾過粉末を入れてこれを混合攪拌したのち、その混合液を混合槽から過濾槽を経て混合濾へと高速度に所要の精製度に至るまで、すなわち精製度の高いものを望むときは回数を多く、それ以下のときは少く、適宜に反覆循還することにより、濾過膜形成と濾過の作用を同時に行い得るから、迅速かつ確実に所要の精製液を得られることにあると解釈すべきものであるから、必然的に混合槽は、濾過すべき一定量の液を容れるために容積の大きいものでなければならないこととなるからである。(中略)
しかして、前掲各証拠によれば、乙特許発明は、前記構造により濾過網版に濾過粉末を可及的に附着して網目を微細にするとともに、濾過粉末による濾過膜を層成して高速度に循還させ完全に濾過するようにしたため、所要の精製度に確実かつ迅速に濾過し得るとともに、濾過膜を除去する場合版状に剥離しえて洗滌清掃に便利であること、という作用効果を挙げるものであることを認めることができ、これを左右すべき証拠はない。
三 被告の製品及びその特徴
被告の製品が別紙第一目録の図面及びその説明書記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
しかして、被告の製品の乙特許発明の要部に対応する構造上の特微は、
(一) 粗目の金網の両側にステンレス製の細目の金網を張設し、内部に通過間隙を設けた濾過器1があること、
(二) 濾過器1の多数を密閉濾過槽2内に配設した集液管3に連結して密閉濾過槽内に縦設していること、
(三) 集液管3の一部より濾液排出管14及び珪藻土容器10に至る管を連結すること、
(四) 珪藻土容器4を送液ポンプの吐出口側と濾過槽の間に組み入れたこと、にあることは、被告の製品の構造自体から明らかである。
四 被告の製品は、乙特許発明の技術的範囲に属するか。
被告の製品は、次に説示するとおり、その構造において、乙特許発明の要部の一を欠き、その作用効果においても差異があるから、他の要部を具備するかどうかについて判断するまでもなく、乙特許発明の技術的範囲に属するものとはいいえないといわざるを得ない。すなわち、
乙特許発明にいう混合槽に対応する被告の製品の部分は珪藻土容器であることは、前掲乙特許発明の要部と被告の製品の構造上の特徴を対比することにより明らかであるところ、右被告の製品の構造に前掲(省略)の鑑定の結果を参酌考慮すると、被告の製品は、まず濾過槽2を清水で満水し、珪藻土容器に適量の珪藻土を入れたのち、珪藻土容器も清水で満水し、ついで送液ポンプにより珪藻土容器から給水管5を経て密閉濾過槽2に至り濾過器1を通つて集液管3に至り、集液管3から濾液還流管8を経て循還管9に至り、再び珪藻土容器に至る循還路を形成して、清水と濾過粉末とを混合すると同時に濾過膜を形成し、その後は珪藻土容器を循還路から切り難し、濾過すべき液を弁22を開いて送液ポンプにより密閉濾過槽に圧入して濾過器1に形成した濾過膜を通過させて清浄な液を取り出すものであるから、右作用の中において、珪藻土容器の果す機能は、前記循還路の中に満水した清水を珪藻土容器内で混合するのみであり、濾過すべき液の全量を容れる機能は有せず、したがつて、その容積も小さいため、乙特許発明にいう混合槽に該当しないというべきである。珪藻土容器の機能が右のとおりである以上、被告の製品は、乙特許発明の意図したところの濾過すべき液体の全量をあらかじめ濾過粉末と混合してこれを反覆循還することにより所要の精製度を確実、かつ迅速に得られるという作用効果を有しないことも明らかである。かように、被告の製品は、乙特許発明の要部である前記三の(一)の(3)(4)の混合槽を欠如し、その作用効果においても前記のとおりの差異があるから、乙特許発明の技術的範囲に属するものとはいいえない。(三宅正雄 太田夏生 荒木恒平)
図面の略解 この装置の縦断正面図
図面の説明
(1)は粗目の金網の両側にステンレス製の細目の金網を張設し内部に通液間隙を設けた濾過器で、密閉濾過槽(2)内に多数縦設し、その下端を集液管(3)に連結する。(4)は管(3)の下部に架設した拡散板で、濾過槽(2)下面に開口する給液管(5)の噴出口に対設している。(6)は送液ポンプで給液管(5)に連り、且つポンプ(6)の排出口に面する管(5)より高圧側開閉弁(20)を経て珪藻土容器(10)の上部より内部に入りその内底近くに開口する支管(23)を設ける。支管(24)は容器(10)内の上部に開口しその底面より外部に出て低圧側開閉弁(19)を経て給液管(5)の噴出口の近くに連結する。集液管(3)に連結した濾液還流管(8)は循還管(9)を経て給液管(5)に連結しポンプ(6)の吸入口に至る。なお(15)、(16)、(18)及び(21)、(22)はそれぞれ各管に設けた開閉弁である。(11)は容器(10)の開閉蓋、(12)はその空気抜き弁、(13)は濾過槽(2)の上部に設けた空気抜き管、(14)は循還管(9)に設けた濾液排出管(25)は給液管(5)のポンプ(6)の吸入側に設けた給水弁である。
まず吸水弁(25)及び開閉弁(21)(18)を開き、濾過槽(2)の上部に設けた空気抜き管(13)も開いて清水を満水にする。
次に珪藻土容器(10)内に適量の珪藻土を入れ低圧側弁(19)を開いて容器(10)内も満水にする。
そして給水弁(25)を閉じ、高圧側弁(20)を開くと、ポンプ(6)より容器(10)内底部近くに吐出された水により容器(10)内の珪藻土は混合攪拌され、支管(24)を経て濾過槽(2)へ珪藻土の懸濁液が噴出する。この際開閉弁(21)の開閉度を調節し、槽(2)内の圧力を調整する。すると槽(2)内に生じた懸濁液は濾過器(1)を経て清水となり集液管(3)―循還管(9)―ポンプ(6)を経て容器(10)内に至つて再び懸濁液となり支管(24)を経て槽(2)に還える。かくして濾過器(1)の網面に珪藻土の濾過膜が形成される。
そして容器(10)内の珪藻土が無くなつたら弁(19)(20)を閉じ弁(21)を全開し、充分に濾過器に珪藻土を附着させる。しかる後は弁(22)、(15)を開き、例えば浴槽から来る汚水を弁(22)を通してポンプ(6)により槽(2)内に噴出させ、濾過器の網面に附着した珪藻土の濾過膜を通過させて清浄水とし管(8)、(9)を経て弁(15)より再び浴槽に返えすのである。